★2006年8月13日 【河北新報】掲載

2006年8月13日 【河北新報】掲載

 ★心のありようを表現

 人はなぜアクセサリーを身に着けるのか、外見を飾ることだけが理由ではなかろう。気持ちを奮い立たせたり、和らげたり…。自分らしくあるための小道具なのだと思う。シルバーを中心とした一点物のオリジナルジュエリーを制作している千葉香さん(39)は、作品に「人生を美しく生きよう」という思いを込めている。
 昨年末、「ペ」というシリーズを発表した。銀に黒真珠、べっ甲を組み合わせた。タイトルは、ものを吐き出す音。「心の中の嫌なものを吐き出し、さあ前を向いて生きていこう、という気持ちを表現しました」
別のシリーズでは、どの方向から見ても違うデザインを、チョーカーとリングで見せた。人の心は一通りではないという意味が込められている。「その時々に自分の心が感じたことを形にしています」と言う。
★工房を訪ね歩く
 1990年、独学で彫金を学び始めた。分からないことがあると、全国の工房を訪ね歩いた。門前払いされることも珍しくなかった。伝統工芸の技術を学ぼうと、べっ甲職人の元を訪れたこともある。「いばらの道でしたね。美術系大学で学んだ人はいわばサラブレット。私は経験も知識も乏しく、スタートも遅かった落ちこぼれ」。それでも作ることは楽しかった。「オセロの駒を白から黒に変えるように、技術の隙間を埋めていきました」
 焼成すると純銀になるアートクレイシルバー(銀粘土)を使った、手の込んだ銀細工が千葉さんの特技だ。銀粘土は加工が容易だが、彫金に比べると強度が足りない。業界では手芸の域を出ないと言われていた。しかし、その柔らかで細やかな表現力は捨てがたい。研究を重ね、難しいとされていた地金と銀粘土を接合する技術の開発に成功。サラブレットに負けない努力が、シルバージュエリーの可能性を大きく広げた。
★学ぶ人へ開放 
 特許出願中だが、2冊の解説書で技術を余すことなく公開している。「学びたい人に門を広く開けてあげたいと思うので」。自分が苦しんだ経験がそうさせた。「高価なプラチナやゴールドではなく、身近なシルバーで日本女性の美しさを引き立ててあげたい」と言う。組み合わせるの石の1粒1粒でも、ルーペで確認して選んでいる。二百本余りの「たがね」は全て自作。ネット販売はせず、1つ1つ顧客に手渡す。
千葉さんのジュエリーを見ていると、美しさとは形ではなく、人それぞれの心のありようなのだと、改めて感じる。(生活文化部・安部樹) 千葉さんの作品は、仙台市青葉区のせんだいメディアテークで開催中の「日本ジュエリーアート展」に展示されている。16日まで

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